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用語集
モジュラーデザインとは、互換性が高い少数の部品(モジュール)を事前に複数設計しておき、それらを組み合わせて多様な製品を設計する計画的な設計手法である。製品の多様化を進めつつも、できる限り部品種類を減らしてコストダウンを図ることを目的としている。
現在、多くの企業では新製品を作るたびにその製品専用の部品が増えていく。専用の部品を作るということは、その部品を作るために専用の金型、専用の治工具、検査治具なども必要になり、試作にもコストがかかる。
設計におけるコストダウンのセオリーとして専用部品の新規設計を減らし、できるだけ今まで製造してきた製品と共通の標準部品を採用することが挙げられる。共通部品を使用すれば、設計や試作にかかる工数/コストは削減可能であるし、今ある設備で製造できるため新規設備の投資額を抑えたり、標準部品の発注量を増やし大量購買によって部品単価を下げたりすることが可能だからだ。
しかし今ある共通の部品ばかりを使っていると製品のバリエーションが生まれず似たような製品ばかりになり、そもそも顧客の要求するスペックを達成できないということも考えられる。
それを解決するのがモジュラーデザインという考え方である。
例えばメガネの量販店ではモジュラーデザインに近い販売形態がとられている。メガネ屋に行けば様々なフレームが売っているが、レンズの度数は人によってさまざまだから自由に選べるようになっている。結果、遠視の人も近視の人もレンズさえ変えれば見た目は同じフレームでもその人に合わせたメガネが完成する。また、レンズ自体もそれぞれのフレームに合わせて加工して装着するので共通化されており、どのフレームを選んでも同じレンズを使うことができる。また、レンズのバリエーションとして薄型の非球面レンズやサングラス用の偏光レンズ、特定の波長の光をカットするレンズも用意されている。
このようにあらかじめメガネに求められる機能を定義し、事前に設計された共通部品の組み合わせで製品バリエーションを増やしつつ顧客の要求を満足させていくという意味ではモジュラーデザインに近いと言える。
モジュラーデザインが特に有効とされるのは少量多品種生産の製造業である。多品種対応のための専用部品は増えやすい一方で、生産は少量のために投下コストの回収が難しい。そのため部品種類を極限まで絞ることができるモジュラーデザインの恩恵は非常に大きい。
実際に多品種少量生産の製造業として代表的な自動車製造業では、トヨタの「TNGA」(Toyota New Global Architecture)を始めとして、日産ルノーの「CMF」(Common Module Family)、フォルクスワーゲンの「MQB」など各社がモジュール化の取り組みを進めている。
モジュールとは、交換可能な構成単位や標準化された要素のこと。製造業で言えば、「ユニット」という言葉とほぼ同義である。
モジュール化という考えかたはもともとコンピューター業界で使われていた。
大規模なシステム開発においては、1つの小さな変更が全体に大きな影響を及ぼすこともある。そのため、少しの仕様変更であっても全体の調整に莫大な工数がかかることも珍しくなかった。
そのため大規模なシステムを開発する際には、まず機能単位(モジュール)に小さく切り分けてそれぞれを開発し、最後にモジュール同士をつなげて大規模システムを完成させるという手法が主流となった。
モジュールはひとつひとつ完結している単位であるため、仕様変更や不具合があっても該当モジュールだけを修正すればよいからだ。
こうして機能単位(モジュール)に切り分ける考えかたを「モジュール化」と呼ぶ。
工業製品においてはユニットという考えかたがモジュールに近い。機能のコアとなるユニット(モジュール)に互換性を持たせて換装することで顧客の要求を満たすということだ。
例えば自動車用ランプであれば、日本と海外で法律や通行方向が異なるためにそれぞれの地域に向けた仕様が存在する。開発時にはそれぞれ丸ごとデザインしなおすのではなく、外装は共通とし灯体ユニットのみを入れ替えることによってそれぞれの仕向地にあわせた機能を実現する。
さらにこの灯体ユニットをそのまま他の車種にも使えるとすれば開発コストや部品単価をさらに抑えることができる。今度は灯体ユニットを共用し、外装を変更することで他の車種にも使えるようにしていく。これがモジュラーデザインの考えかたの基本となる部品の標準化だ。
部品標準化の取り組みを進め、あらかじめ想定される仕様に対して標準化した部品を複数用意しておくのがモジュラーデザインである。
モジュラーデザインを採用すると多様な製品をモジュラーの組み合わせ数で実現することができる。先ほどの自動車用ランプの例でいえば、それぞれの仕向地に加え、グレードによってバルブ(豆電球)、ハロゲンランプ、LEDなどバリエーションを持たせることもできるし、一部車種ではハイブリッド車向けやスポーツ仕様に異なるカラーのパーツを採用することもある。このようにモジュラーデザインは多品種少量生産の製造業において、専用部品の新造を減らすことで大幅な工数減と設備投資を抑制することが可能になる。
ここまでモジュール化、モジュラーデザインのメリットについて見てきたが、モジュラーデザインにも課題がある。
1つ目は導入ハードルの高さだ。
モジュラーデザインを導入するためには、顧客から要求されうるスペック(要求仕様)を正しく想定することと、それらを網羅しつつ部品点数を絞っていくことが大事である。想定外に高いスペックを要求されたり、事前に設計してあるモジュール同士の組み合わせで網羅できないスペックがあったりすると結局専用部品を新規設計することになるからだ。
そのためモジュラーデザイン導入に当たっては、どの部分をモジュールとして切り出していくのかという設計標準の考えかたや、長期にわたって要求を満たすために必要なスペックを持つモジュールを用意しておくこと、モジュールのパラメータをJIS Z 8601「標準数」に合わせて点数を絞っていくなど、実現するためには専門知識を多く必要とするため、自社内のリソースだけで完結させるのは非常に難しい。
実際に導入する際はコンサルタントや専門家、システムベンダーと契約して推進していく必要があり、期間と費用がかかる一大プロジェクトとなることがほとんどだ。
2つ目は導入後の問題だ。
モジュラーデザイン導入後の代表的な問題が設計検討の工数増だ。
設計者からすると、膨大なモジュラー群からどれを組み合わせれば顧客の要求スペックを満たす製品になるのかわからない、という状況である。
こうなると設計者はひとつひとつパターンを作成し、実際に顧客の要求仕様を満たすかどうか検討するという作業を繰り返し行うことになり、結果として「いちいち試すくらいなら新規に図面を起こすほうが早い」といういわゆる「探すより作るほうが早い」という状況が生まれてしまう。
そのためモジュラーデザインを導入する際には、設計者を支援するシステムの導入もほぼ必須になるだろう。部品の組み合わせ結果によりスペックを瞬時に表示するものや、さらに進んだものでは顧客の要求仕様を入力することでモジュールの組み合わせを提案してくれる自動設計システム「コンフィグレータ」等だ。
こうしたシステムを使用せずにモジュラーデザインの取り組みを進めても、現場で根付かなかったり、結局コストや競争力の増加につながらなかったりと、様々な弊害が発生する可能性があることに留意が必要だ。
モジュラーデザインとは、互換性が高い少数の部品(モジュール)を事前に複数設計しておき、それらを組み合わせて多様な製品を設計する計画的な設計手法である。製品の多様化を進めつつも、できる限り部品種類を減らしてコストダウンを図ることを目的としている。
また、モジュール化とは大規模システムの開発において生まれた考えで、大規模システムを機能別に切り分けたもの。モジュールを組み合わせることで開発を円滑におこなうために生まれた手法である。
製造業においてはモジュラーデザインは多品種少量生産の自動車製造業などで効果が高く、自動車メーカー各社が取り組みを進めている。
ただし、モジュラーデザインは大きな導入費用や長い期間を要するため導入のハードルが高く、導入後の課題も生じることがあるため、本当に自社に合う取り組みなのか慎重に判断する必要がある。