ナレッジマネジメントの重要性を多角的に考えよう 第3回:現場での組織力強化の視点から考える②
「古くて新しい課題」などと称されるナレッジマネジメント。ナレッジマネジメントにまつわる記述やITツールは近年も増加傾向にあります。様々な情報がデータ化され、ITが発達してきている中、その重要性のみが一人歩きしていて解消に至らない、そんな企業も多く見受けられます。それはなぜなのか?改めて、様々な視点からナレッジマネジメントの重要性を探ってみたいと思います。
第3回:現場での組織力強化の視点から考える ②
前回では、個人のスキルアップに欠かせない知識の土台と、必要な時に誰でも知識を取り出せる環境の重要性についてお伝えしました。今回は、この個人のスキルアップやそれにより表出化した情報(「知」)を、いかに組織内で共有していくかについて、昨今チームや組織の対人関係を示すキーワードとして注目されている「心理的安全性」の視点から考えていきます。
① 知識を土台とした個人の成長
② 心理的安全性が促進する情報共有
③ 組織知の質を高め、イノベーションを加速する多様性
※以前の記事はこちらからご覧ください。
「ナレッジマネジメントの重要性を多角的に考えよう 第1回:2度の失敗史から考える」
「ナレッジマネジメントの重要性を多角的に考えよう 第2回:現場での組織力強化の視点から考える①」
心理的安全性とは
「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」
「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された考え」
心理的安全性の提唱者である、ハーバード・ビジネススクール教授、エイミー・C・エドモンドソン氏は、自身の著書の中で「心理的安全性」についてこのように説明しています。2015年に、Googleによる労働改革プロジェクトの調査結果にて発表された5つの成功因子の1つ(にして最大の要素)に「心理的安全性」が含まれていたことで、この心理学用語が広く注目を集めるに至りました。
エイミー・C・エドモンドソン氏は、心理的安全性はチームレベルで存在するものと定義しています。また、先に上げたGoogleの一大プロジェクトの主導者は、「もしメンバーが心理的に安全だと感じていない場合、たとえ明確な共通目標設定を掲げていたとしてもそのチームは十分な成果を上げることはできない」とまで断言しています。
沈黙がはびこるチームの心理的安全性は低い
「うちは飲み会などでざっくばらんに色々話せているので、チームの雰囲気は良好。」
このような文化が心理的安全性とイコールになる、ということではありません。あくまでも、自社ビジネスのビジョン・共通目標に向かって、メンバー誰しもがフラットに「意見を述べる」ことができる、そういった環境を前提とするのが、心理的安全性の高いチームです。例えば、ミーティングでは特定のメンバーだけが発言し、同意するも反対するも沈黙を貫いている、そういったメンバーが多数を占めてはいないでしょうか。毎回大きな抵抗もなく物事が進んでいる状況が必ずしも健全とは限りません。実は沈黙は個人の安全を確保するのに最も即効性のある方法と言われています。無関心、故にだんまりしているわけではなく、
「自分が気づいているくらいだから先輩は気づいている、だから敢えて言う必要はない。」
「今ここで反対するような発言をすると調和が乱れる、黙っておくのが賢明。」
などといった保身的な理由で、チームにとって有効かもしれない意見を内在させてしまうケースで、心理的安全性は低い状況と言えます。代表的な例では、先日2022年7月13日に13兆円の賠償命令が旧経営陣に下された、東日本大震災における福島第一原発での「人災」による事故。当時の国会事故調の委員長、黒川清氏が記した英語版の報告書の冒頭で、沈黙の文化がいかに危険なものかが表現されています。
「この大惨事は「日本であればこそ起きた」ものであり、日本文化に深くしみついた習慣(すなわち、盲目的服従、権威に異を唱えたがらないこと、「計画を何が何でも実行しようとする姿勢」、集団主義、閉鎖性)の中にある。」
日本文化と表現されていますが、これは「心理的安全性の低さ」と読み替えられます。必要な時に必要な意見をフラットに言える「心理的安全性の高さ」が、いかにチームに、組織に、強いてはビジネスに重要かがとてもよく伝わる例ではないでしょうか。
VUCA(ブーカ)時代では率直な情報共有による「組織知」の醸成が必須
前回でメンバー一人ひとりが自身の発言力、表現力を高めるための「知識」の重要性について記載しました。しかし、チームや組織の中で個の意見を臆することなく率直に表現できる、また聞き入れてもらえるフラットな場がなければ、個々人の「知」を「組織知」として発展させることは難しいです。つまり、心理的安全性の高さが、チームや組織内での情報共有促進のカギを握っている、と言い換えられます。
「VUCA(ブーカ)」というワードをご存知でしょうか。「不安定性:Volatility」・「不確実性:Uncertainty」・「複雑さ:Complexity」・「曖昧さ:Ambiguity」の4つの単語の頭文字を合わせた軍事用語として発祥した言葉で、「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。DXが必要と叫ばれる起因は、現状がこのVUCA時代の最中にあるため、とも捉えられます。
過去の不具合や不適合情報、類似する案件情報など、企業資産としての「知識」を適切な場面でそのまま活かすことはもちろん重要です。現状維持を目的とする組織なのであれば、既存の「知識」をしっかり活用できれば、組織力を確実に強化していくことができます。ですが、多くの企業は現状をより良くすることを前提にビジネスを展開しています。共通目標に向かい、建設的かつ率直に個人の「知」を共有し、都度適切な「組織知」へと発展させることは、変化の激しいVUCA時代において、その必要性を急速に増しています。
心理的安全性が高ければ、メンバーの意見や考えは自ずとチームや組織のものとなる
「では、ミーティングでは強制的に意見出しする時間を設定し、情報共有を促進しよう。」
とすれば良いかというと、もちろん最善の策とは言えません。重要なことは、チームや組織、ビジネスにとって「自分の意見は価値がある」と思わせる環境の構築です。リーダーをはじめとするメンバーがしっかり「聞く」姿勢であったり、意見しやすいような「問いかけ」を考えるなど、意識改革も必要になってきます。
「個人持ちの情報が共有化されないので、ナレッジ整備が進まない」というご意見をよく伺います。メンバーが情報を抱え込む企業文化が是正されなければ、システムを導入したとしても社内の「知識」として活用されることはありません。メンバー一人ひとりの意見を尊重し、聞き入れる環境、つまり心理的安全性の高いチームであれば、共通目標に向けて自発的に個人の「知」を共有する、前向きな帰属意識も高まっていきます。強制することなく、「あなたの考えはチームのもの」として共有化され、組織知へと繋がるサイクルも根付いていきます。ナレッジマネジメントの一環として、個々人の「知」を気軽にアウトプットできるような環境を設けることも、組織知に繋がる情報共有の促進には重要です。
場と時間にとらわれず、価値ある、鮮度の高い情報共有を促進!
「Knowledge Explorer」では、各個人の業務シーンに合わせてAIが自動でピックアップして通知する参考ドキュメントに対して、コメントや評価を残す機能を搭載しています。作成者や知見者が内容のポイントや追加で参照すべきドキュメントについてコメントを残したり、逆に参照した側が参考になったポイントなどを気軽にアウトプットすることができます。ミーティングの場や時間にとらわれず、率直で価値ある意見の収集・提供・共有を可能にします。
ナレッジ活用を促進する『Knowledge Explorer』製品紹介 「評価・コメント・みんなの検索履歴」
まとめ
チームや組織内での情報共有は個々人の「知」を「組織知」へと発展させるために必然です。その際、共通の目標の達成に向けて、メンバー一人ひとりが主体的かつ建設的な意見を率直に出せる、心理的安全性の高い状態を組織として築けているかどうかは、組織マネジメントの視点にはなりますが非常に重要です。また、ナレッジマネジメントの一環で、情報共有を促進するため、個々人の「知」を気軽にアウトプットできる環境を設けることも有効であり、システムで支援できる領域です。これにより、SECIモデルの「表出化~連結化」 のプロセス実行の機会を増やせます。
では、フラットに建設的な情報共有ができることは、組織力の向上とイコールになるでしょうか。次回は情報共有によって創出できる「組織知」の質を高めるポイントとなる「多様性」の視点から、「ナレッジマネジメント=現場での組織力の向上に繋がる」について考えていきたいと思います。