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2024.02.06 コラム

企業の品質保証力の源泉とは?~品質保証部でのシステム活用とDX

図研プリサイト 大出洋輝

皆さんこんにちは。図研プリサイトの大出と申します。
私は新卒で入社した先で製造業の品質保証や試作を経験し、その後、中小企業の経営支援やISO認証の審査機関としての立場、そして今ではITシステムによって製造業の皆さんを支援するという立場から製造業に10年関わってきました。

品質保証というのは本来、製造業においてとても重要な概念であるにも関わらず、使われる用語や考えかたがニッチということもあり、社内に理解者が少ない……というのは品質保証あるあるではないでしょうか。

大丈夫です。私はわかります。皆さまあっての製造業であるということを。

今日は品質保証に関わる皆さんの話を聞いてきて考えた「品質保証力の源泉」をテーマにコラムを書いてみようと思います。

このコラムが皆様が所属されている会社の品質向上の取組みについて改めて考えるきっかけになれば幸いです。

経験こそがモノを言う品質保証業務

それでは「企業の品質保証”力”の源泉はどこにあるのか?」ということについて早速考えていきましょう。

が、その前に皆さまが考える答えはなんでしょうか?

理想的な答えとしては、「QMSなどのマネジメントシステム」が挙がるでしょう。個人の能力によらず、組織の仕組みで品質保証を行う。「自社の強みは強靭な品質保証体制です。」というのは間違いなく理想的な姿としてあります。

しかし一方で、品質保証というのは経験こそがモノを言う業務である、というのも皆さん痛いほど感じていらっしゃるのではないでしょうか?

たとえば私がプラスチックの射出成型の現場に配属になった際に、右も左もわからない状態で判じた「キズ」という事象。
ところがその道の経験者が見れば、それは金型由来の「型キズ」だったり、金型開閉の際に生じる「カジリ」だったり、樹脂の合流地点に線状に現れる「ウェルド」だったりしたわけです。もちろん、どの事象かによって工程内不良を削減するための方策は全く変わってきます。

「大出君、キミがまとめてくれた部品のキズについてのグラフと工程改善案だけど……これ、そもそもキズじゃなくてウェルドだな……」

と言う上司は「あぁ、もう1人自分がいれば……」と思わずにいられなかったことでしょう。上記の例で言えば、成形時に発生したウェルド(溶融樹脂が金型内で合流する部分に出る線状の模様)であったならば、成形後の部品の取り扱いを改善したところで無駄足なのは、経験者からすれば言わずもがな当然のことです。

属人化しやすい品質保証という業務の特殊性

「あぁ、もう1人自分がいれば……」というのは、知見や業務が属人化していることの裏返しであり、マネジメントシステムにおいては禁句とも言える考え方です。

しかし、そのマネジメントシステム=品質保証の仕組みを構築し、推進する立場にある品質保証部門こそ、皮肉なことに最もスキルや経験が問われる部門であり、属人化が進みやすい部門とも言えるのではないでしょうか?

実際に多くのお客様にお話を伺う中で

  • けっきょく全部把握しているのは自分だけで……
  • 最後はベテランに聞いてからでないと業務が進まない

という言葉を双方の立場から聞くことも多かったのも、こうした状況を反映しているでしょう。
また、私自身も品質保証に関わった経験から「さもありなん」という感想です。たとえば「明日からISOの事務局お願いね」と言われたら「どうしようなぁ」と思う方も多いのではないでしょうか?

その後、私自身が品質保証とは全く畑違いの営業やマーケティングに携わる中で強く感じましたが、これらの分野には正解がありません。これらの部門では「お客様からの受注」という山頂を目指すわけですが、その山の登りかたは様々で良し、とされることが多いのです。程度に差こそあれ、営業の現場で「上司の提案プレゼンを一言一句真似しろ」と言う会社は少ないのではないかと思います。また、「なんでかわからないけれども受注できた」というのは「結果オーライ」とされます。

一方で、品質保証の現場は極めてロジカルに成り立っており、不良事象があれば何かしらの原因が特定されるべきです。真因が特定されないことには是正処置ができない、もしくはその有効性を担保することができません。つまり、1つの事象に対して正しい対策が明確に決まっており、論理的にそれを説明できなくてはならないのです。「なんでかわからないけれども不良が減った」は「結果オーライ」とならず、むしろその変化点について頭を悩ませる結果になることもままあるのではないでしょうか。
 
となると、そもそも真因となる事象を特定し、処置を考え、という部分に経験やスキルを要求されるので、一朝一夕には業務を引き継ぐのは生え抜きのベテラン同士でも難しいケースが多いです。

こうした部分に品質保証業務という仕事の特殊性を感じる次第です。

品質保証力の源泉は”人”である

これまで見てきたように品質保証業務を正しく遂行するためには知見やノウハウ、それも現場の実態に則したものが必須であると言えます。そしてそれを備えるのは各要員です。
つまり、

品質保証力の源泉は”人”である

というのは結果的に多くの企業において当てはまることではないでしょうか?

もちろん検査機器や設備などの資産も会社に属する品質保証力の一端ではあります。ただし得てして機械、道具というのは使うためのノウハウが必要ですし、数値の設定根拠に知見を求められます。どんなに優れた検査機器が導入されていても、人のミスによってNG品が流出してしまった、という事象が少なくない企業で実際に起こっているということも、その裏付けになっています。

品質保証とマネジメントシステムと技術伝承

企業の品質保証力の源泉が人であり、その経験、スキル、ノウハウこそがその本質だとすれば、それを要員の間で移転していくことが技術伝承です。
ISO9001を始めとしたマネジメントシステムの要求事項にも「OFF-JTやOJTを活用した要員の教育」があります。
しかし、OFF-JT、つまり教育資料などを活用した教育には限界があり、実務に則したノウハウを得るためのOJTにはそれ相応の時間がかかるのも事実です。

「昔は失敗しながら学ぶことができた。不良が出ても、謝ればお客様は許してくれた。しかし、今はそうはいかない。」という声も聞かれて久しい今日この頃。たしかに市場も顧客もそういった事情を鑑みてメーカーやサプライヤーの対応を待ってくれることはありません。

さらに言えば、OJTにおける技術伝承ではお互いのコミュニケーションの質によっても継承できる知見の多寡や質が左右されます。

ある展示会でその道のベテランの方にお話を聞いて印象に残ったのが「後輩たちに役立ちそうなことは全部資料にまとめておいて!と依頼されても、どれが役に立つのかわからないし、そもそもヌケモレなくまとめるなんて不可能だよ」というお話です。これは端的に「伝える側」の難しさを表していると感じました。

OFF-JTやOJTによる技術伝承の問題は他にもあります。自社の品質保証体制を維持向上するためには、永遠に人同士のコミュニケーションによる技術伝承を繰り返さねばならない点です。
これは、ベテランが急に退職を余儀なくされるような事態が起こった際、その企業の品質保証力は無に帰すリスクを負っているとも言えます。一度失われたノウハウを取り戻すためには、少なくとも蓄積してきたのと同じ時間がかかるでしょう。
それどころか上記のように失敗が許されない現代では、同じ時間をかけても、同じノウハウが蓄積できるとも限りません。

品質保証力の源泉を”人”から”ITシステム”へ

つまり、真に取り組むべきは技術の伝承ではなく、人に依存しない品質保証基盤の確立、および強化ではないでしょうか。
人に拠っていたノウハウや経験をデータベースやAIという形でITシステムに移転し、企業の資産として保有・活用していくことでそれを実現することが現実的になってきました。

ITシステム、特にデータベースと言われるシステムができることは、データを溜め、活用する手助けをすることです。

データを溜める、という観点から言えば、「これまでの顧客クレームや工程内不良のデータを保管していますか?」と聞くと保管方法や運用は様々ですが、ほとんどの方が「はい」と答えます。
しかし、そのデータを活用できていますか?と聞くと、皆さん首をかしげることが多いのです。
特にデザインレビュー(DR)などのタイミングで直接設計部署へフィードバックする機会はあるものの、その前段階であるFMEA等は設計の管轄であり、品質保証部門のデータが活用されにくい、というお話は多くのお客様で聞かれました。言わずもがな、DRで指摘して手戻りが発生するよりは、設計FMEAの時点で故障モードとしてつぶしこまれていれば開発リードタイムをより短縮できます。
また、DRで指摘をするノウハウ自体も属人化しており、

  • DRに参加できる人間が限られている
  • DRでの指摘モレがしばしば起こる

などの話も多く聞かれました。
(その点、食品製造業などではHACCPのように重点管理項目を品証部門主導で設定することも多く、また状況が異なってくるかと思います)

とはいえ、ITシステムの活用が全くされていないわけではなく、現在、多くの企業がExcelで不良事象を管理しています。それに加えて整備されたデータベースや、ワークフローを回すシステムが入っている、という企業も多くなってきました。しかし、これではまだまだ、品質保証に関わるベテランのノウハウや経験をITシステムに移転できているとはいいがたいのではないでしょうか。ITシステムの本懐は、データを貯めるところではなく、データを活用するところにあるからです。

ではなぜデータの活用が進まないのか?品証部門におけるデータ活用のハードルとは何であるのか?お話を聞く中で見えてきた問題は「不良事象の表現方法のゆらぎ」でした。

品証のDXを妨げる「表記のゆらぎ」

たとえば「部品が異常に熱くなった」という不良事象があったとき、

  • 発熱した
  • 90℃になった
  • 高温になった

と、様々な表現があります。

お客様からの問い合わせを基に「熱くなった」と記載されていた場合、「発熱した」で検索をかけても検出できません。しかし本来指している事象は同じです。これが毎回同じ納入先で起きていることがわかれば、たとえば「お客様が使用条件を間違えているのでは?」など、違う知見が得られることでしょう。
また、「いちど変更されてしばらく出てこなかった不良だが、どこかの時点でまたこの設計に戻ってしまった」というような経緯も読み取れるようなケースもあるかもしれません。
が、現在品質保証部門で使われている多くのシステムではキーワード完全一致での検索が採用されているため、これらを網羅的に確認することは難しいです。

今のところ、これの解決策はExcelの入力規則などで縛る、というくらいしか方策がありません。
しかし、過去の積み重ねや製品カテゴリによる出荷量の絶対的な多さから膨大な不良事象の件数がある場合、その属性だけで絞っても不良事象の内容は多岐にわたることになります。
結局、担当者毎に表現が異なれば、検索、検出することは不可能ですし、データを余すことなく活用できるという環境を実現することは難しいでしょう。

伝承される側から見た品証DXの必要性

視点を少し変えて、「伝えられる側」からみた品証部署のIT活用について見ていきたいと思います。
多くの製造業において、品質保証の仕組みを理解していることはマネジメントにおける必須要件となっています。私が営業として様々な企業の工場を回っていた際も、工場長クラスの方は皆さんキャリアとして品質保証部署を経ていることが多かったです。
そのため、設計や工場の他部署からもジョブローテーションの一環で品証部署へ異動があることもしばしば。
そのときに問題となるのはITシステムの活用度合のギャップです。設計の方であればCADやPDM,PLMなどのシステムを使っていることが一般的であり、工場の方であれば生産管理システムに触れる機会も多いことでしょう。そういった部署から異動してきた人間、特に若手からすると、よく聞かれる「過去トラ一覧のExcelが重く、開くのに5分かかる」というような品証のIT環境がことさらストレスに感じられるものです。
また、クレームや工程内不良を集計したExcelファイルやデータベースがあったとして、検索性が悪かったり、そこから報告書に加工するために多くの手作業(度数集計やグラフ作成など)が必要になったりと、品質保証の現場担当者から聞かれるITに関する課題要望は多く、結局多くのカンコツは口伝で伝承されている状況ではないでしょうか?

こうした状況は、品質保証の考えかた自体がITより先にできたものであり、統計処理以外の分野ではITレスで発展してきたということも無関係ではないでしょう。
しかし、他部署がDXの波に乗りITシステムの更なる活用を進めていく中、品証におけるIT活用度合とのギャップが大きくなっていることは否めません。こうした状況からも品証DXの必要性が高まっています。

たとえば弊社、図研プリサイトのQualityforceはクレームデータで学習させたAIを搭載しており、クレームや工程内不良の事象をあいまい検索することができます。上の「発熱した」「高温になった」というような表現の揺らぎを吸収して検索することで、過去の類似事象とその際とった対応を即座に探し出す機能も搭載しているシステムです。
また、データベースに蓄積された過去トラの分析結果をグラフや図、ヒートマップで表現することができます。担当者が「正」の字を書きながら集計していたようなパレート図を瞬時に作成することが可能になるのです。

もちろん製品ごとに異なる諸元があり、過去の製品に行った修正、是正がそのまま効かないケースもあることでしょう。しかし、その処置を1番初めに試してみる価値は十分あるはずです。
ベテランだって何かしらアタリをつけて、最もたしからしい処置から行うはず。これを外部のシステムで実現し、誰でも同じようにアタリをつけられるようにする。これすなわち、人に依存しない品質保証基盤構築の第一歩とは言えないでしょうか。

未来の品質保証を担保するためにも、品質保証力をITシステムへ移転すること、ひいては品質保証基盤の確立、そして強化、つまり品証DXが求められる時代はもうやってきています。

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