これが試作部署に配属された若者の本音だ!~試作部署の長い1日:後編
皆さまこんにちは。
5月ももう終わりですが、所属部門に新入社員が配属されてきたという方も多いかと思います。
個人的なことを申しますと、今IT屋さんにいるわけですが、その昔、ある製造業の試作部門に新卒で配属されていたことがあります。
なので今日は私が新入社員として試作部門に配属された頃の思い出話にお付き合いいただけたら嬉しいです。
なかなか他のメーカーの話を聞くこともないかと思いますので、「他もこんな感じか」「新入社員の目から見るとこんな風に映るのか」等、何かのご参考になれば幸いです。
私が配属になったのは熱硬化の接着剤で作業着が真っ黒になってようやく一人前の世界。朝工場に入り、ふと気づけば遠き山に陽は落ちて、月明かりに照らされた木立を横目にドデカミンでカロリーメイトを流し込む日々。
試作開始早々に私が設備を壊した前編はこちらをどうぞ。
頼れる先輩の帰還
さて、私がパティシエになって数分後、頼れる先輩B氏は他の仕事を終わらせ、様子を見に来てくれました。パティシエ修行に励む私を見て「どうしてそんなことに?」と一言。そりゃそう思いますよね。私だってそう思いながらやっています。でもこれは試作だから。30個作りきるまで帰れないから。なりふり構ってられないのです。
「とりあえず6個くらいしか恒温庫に入らないから、どんなもんか一度見てみてよ」と先輩が言うので、1ロット目は一緒に運んでいくことに。なるほど冷蔵庫は知っていますが、こんなふうに高温で保つための機械というのも存在するのだなと。
先輩は仕事がデキる男なので、恒温庫は予めばっちり設定温度にしてくれていました。あとはこのパティシエの努力の結晶を入れるだけ。
「この扉を開けて、奥の方から入れていってほしいんだけど、どこ触っても火傷必至だから気を付けてね」
「はい、わかりました」
「今回は僕がやっちゃうから上に戻ったら引き続きパティシエよろしくね!」
「お願いします!」
と先輩が奥の方に手を伸ばし半製品を突っ込んでいるそのとき、おもむろに閉まり始める恒温庫の扉。
「アッ」と思う間もなく「あちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」という先輩の声。
「大丈夫ですか!?」と慌てて扉を開けるも時すでに遅し。
「大出君……。ゴメン、これむっちゃ痛いから病院行ってくるわ……。」と帰っていく先輩の後ろ姿は忘れられません。新人の面倒を見るのに休日出勤し、労災に遭って帰るその心中たるや。察するに余りあるものです。こんな作業をするにもかかわらず、よりにもよって半袖の作業着の時期だったことも災いしました。
試作はイレギュラーな工程も多いですし、担当者は普段作業者としてラインに入っているわけでもないので、不慣れな作業でこういうことが起こり得ますよね。
結局、先輩は軽度の火傷で済んだのは不幸中の幸いでしたが、冷徹に試作というイベントのことを考えると(納期の前には冷徹にならざるを得ません)、貴重な作業の手が1人減ったことに変わりありません。今後は焼成まで担当せねばならないという事実が重くのしかかります。(生技T氏は他の設備の設定で手が空かないとのこと)
1人、接着剤を手作業で塗り、ある程度数が組めたら台車で恒温庫に運んでセット。多能工ってこういうことじゃないよな、一人屋台というか、もうケーキ屋開業だよな、と思いつつ土曜日の暗い工場内を往復します。
終わらないT1
その日は接着剤の硬化を見届けるのに結局夕方までかかり、その後、梱包、出荷場に運び、出荷指示を確認してから帰途につきました。当初予定していたスーパー銭湯は、気が抜けてしまうと帰りの運転が心もとないので大人しく諦め、休日レジャー帰りの大渋滞に巻き込まれながらの直帰です。
が、T1はこれだけでは終わりません。試作は納品するまでがお仕事です。
そもそもこんなに納期に追われたのは、できあがったT1品を船便でヨーロッパまで送るのにリードタイムが3か月かかることが大きな原因でした。
納品するまでがお仕事と言いつつ送ってしまえばできることは何もないので、すっかり3か月間忘れていたのですが、ある日PHSに見慣れない電話番号から着信が。PHSで国際電話って取れるんですね。
「大出さんですか?T1品届きました、ありがとうございます。……ところでこれ、水めっちゃ入りません?」
この担当者、開口一番に何を言い出すのかと思えば、あれだけ頑張って手作業で作った試作品をこともあろうに不良品扱いと。1人で!あれだけ頑張って!!作ったT1品を???
しかし、輸送中のショックで気密が怪しくなることもあるかもしれません。
「……いやいやいや、そんなはずないでしょう。でも手元に1個あるので今試してみますよ!」
手元に残しておいたT1品最後の1個をおもむろにトイレに持っていき、手洗い場で水をかけてみます。すると数秒後、そこには内部に水をなみなみと湛えた試作品の姿が!
その姿、さながら金魚鉢のごとし。
「水、入りますね」と私。
「でしょう?」と現地の担当者。
つまり私がパティシエとして腕を振るったT1品は、やはり手作業ならではの接着剤の塗布ムラがあり、熱硬化時に接着剤が収縮、隙間が空いて気密性は皆無、とそういう具合だったのです。輸送中のショックなど全く関係がありませんでした。
もうこうなってしまうと私にできることはなく、上司から現地の担当者、およびお客様にごめんなさいしてもらうしかありません。そのあたりは私の手を離れてしまったのですが、火傷の包帯が取れた先輩と2人、上司から事情を色々聞かれ、工場長からは顛末書の提出を命じられたのでした。(同期50人以上の中で初めて顛末書を書いたのはこの私!)
それぞれの立場に立つとそうする他ない、というのは重々わかるので、別に誰に文句を言いたいわけではなく、試作ってこういうもんだよな、とも思います。先輩は新人の付き合いで休日出勤し、労災に遭い、顛末書まで書いたのですが、今も元気に海外で試作の取りまとめをしているそうで。
が、新卒で特に希望したわけでもない試作部署に配属になり、休日返上で1日試作に明け暮れた上、最終的に顛末書まで書くことになったら、20代前半の若者は「何やってんだろうな、俺。」とたそがれちゃうのにも同情いただける部分があるのではないでしょうか。(同期が50人以上いる中で2番目に辞めたのがこの私!)
これは最近、展示会で接客した、ある耐久消費財メーカーの方とのやりとりです。
大出「実は昔、御社に部品を納めているメーカーの試作部署におりました」
お客様「実は私も昔、試作部署にいたのでお会いしたかもしれませんね」
大出「今だから言えますが……試作ってツラくないですか?」
お客様「地獄でしたね」
なんというか、もう笑うしかない、みたいな出来事に連日見舞われるのが試作担当部署です。どこも当たらずとも遠からず、似たような状況はあるのかもしれないな、と思ったできごとでした。
思うに、品質を追求するのは当然と言えば当然なのですが、それが不良事象やトラブルに対処するだけ、つまり頑張ってマイナスをゼロのラインまで持っていくことに日々明け暮れるようになってしまうとしんどいですよね。せっかく頑張るのであれば、尻ぬぐいではなく、ゼロをプラス方向に持っていくことに力を使いたいというのは誰しも同じはずです。
うまくITシステムを使って過去トラをフィードバックし、場当たり的なトラブル対処ではなく不良の未然防止のような方向で製造業を支援ができないか?というのが、私がここに身を置く理由の1つでもあります。
だから図研プリサイトのシステムを検討してください!という結論でも良いのですが、今回はそれよりも、皆さんの会社でも頑張っていらっしゃる試作部署の方や新卒の方がいらっしゃれば、今日から少しでも優しくしてやっていただけたら嬉しいです。何卒よろしくお願いいたします。
日本の製造業の試作部署に幸あれ。